読書感想文クラスの添削コースは「読書会」形式で進めます

組織の中で働いた経験がある人は、『失敗の本質』(中公文庫)を読んでいるとヒリヒリとした痛みを伴う、苦しい気持ちになるではないでしょうか。

技術革新とともに、目まぐるしく変化する環境。
今の失敗から学習せず、過去の成功体験の再現に拘泥する上層部。
現場からの情報とデータの軽視。
「個々人の技術が低い」「一人ひとりの努力が足りない」という精神論の横行。
「失敗したときを想定するから、お前は失敗するんだ」「できると思ったら、必ずできる」といったコンティンジェンシープラン(不測の事態に備えた計画)の欠如。
一発逆転を目指す、戦略なき戦術。
「人ありき」の人事。
上層部の曖昧な指示に振り回され、時間と労力を奪われていく現場。
ずるずると泥沼にはまっていくような、焦燥感とあきらめ。

過去の戦争の話というより、目の前のリアルな人間関係・組織の在り方として、『失敗の本質』を読むはずです。

組織で働くという経験があるかどうかで、『失敗の本質』の読み方は異なるでしょう。

大東亜戦争(太平洋戦争)という、自分が生まれるはるか昔の、過去の戦争の研究なのか。
戦略なき組織が陥る消耗戦(しかも現場だけ)の、リアルな解説なのか。
閉鎖された集団心理の分析なのか。

学生と会社員とフリーランスとでは、『失敗の本質』を読んだ感想はまったく違うかもしれません。

本とは自由に読まれるものですから、解釈は読者に委ねられます。
どんな感想を抱くのかも、それぞれの自由。

しかし、私は「知恵の木」作文教室を開催して、「読書は自由だけど、筆者の意図にも気がついてほしい」とつい思ったことがありました。

『ぼくらの太平洋戦争』(角川つばさ文庫)で読書感想文を書く小学生が、この本の内容を「中学生がタイムスリップする話」「子どもたちが軍人にイタズラするところがおもしろい」と紹介してくれました。

私は作文教室の後で初めてこの本を読みました。
民間人のひどい食生活、大人も子どももイラ立って暴力が絶えないすさんだ環境、焼夷弾で目の前の人間が焼かれるという凄惨な光景など、リアルな描写に重い気持ちになりました。
そんな戦時中でも、恋をしたり冗談を言ったり、ちょっとした楽しみがあったわけで、軍人へのイタズラというエピソードが挿入されているという印象を私は持っています。

あとがきには、「どんなに科学が進歩しても、戦争をやめられないほどの愚かさを持っているかぎり、人類の未来には破滅が待っているだけだ。若い人たちにはそのことを知ってほしい」という筆者の思いが書かれていました。

あとがきに書かれた筆者の思いや私の読後感を、作文教室の小学生に伝えるかどうか、非常に迷いました。
しかし、結局はやめました。
小学生は『ぼくらの太平洋戦争』を数回読んで、ストーリーをきちんと把握していました。
そのうえで、戦争の悲惨さは印象に残っていなかったからです。
小学生には小学生なりの価値観があるわけです。
今の時点で、私の考えを押しつけるのは軽率かもしれません。

『父が子に語る昭和史』(ふたばらいふ新書)は、父親である筆者が高校生の息子を意識しながら、昭和という時代の飢餓、貧困、戦争、高度成長などを書き綴っています。
その中でも親世代と子ども世代との価値観の違いが、たびたび語られていました。
「誰だって戦争は嫌である。しかし、そういう価値観を自分たちの言葉だけで私に伝えるのは、決して『語り継ぐ』ことではなく、むしろ自分の価値観を何の検証もなしに押しつけているだけなのだ」と筆者は書いていました。

「知恵の木」作文教室では、今週と来週に読書感想文クラスの添削コースを開催します。
読書感想文の校正と原稿整理はきっちり行いつつも、読解については私の考えを押しつけず、「読者」という同じ立場で意見を交わし合いたいと思います。
不安定な世界情勢の今、読みたい本。『天と地の守り人』もお勧め

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