眠れないほどの発作的でしつこいセキをその場で治した麦門冬湯にまつわる話

夜中に発作的に強くせき込んで、寝るに寝られない日が続きました。
ここで導入した麦門冬湯(バクモンドウトウ)が驚くほどの効果を発揮したので、書き残しておこうと思います。
『漢方治療』(芦田稔、蒼天舎)



「西洋薬がまったく効かなかった激しいセキが、麦門冬湯で治まった」と、私の家族は以前から感心していました。
それで、麦門冬湯を我が家の常備薬にしていました。

ただ、熱を冷ましてセキを抑える五虎湯(ゴコトウ)のほうが自分の体質に合っているような気がしていたので、私は麦門冬湯をほとんど飲んでいなかったのです。

私の場合、乾いたコンコンというセキではなく、べっとりとしたタンがのどに絡んで、ゲホゲホと顔を赤くしてせき込むことがほとんど。
体力もあるほうなので、麦門冬湯は違うのではないかと思っていたわけです。

しかし、ここ数日に私に起こったセキがあまりにも激しくて、五虎湯がないから仕方なく麦門冬湯を飲んでみました。
結果、夜中の発作的なセキについては著効を発揮!
布団の中でのたうち回りながらセキをしていたのに、麦門冬湯を飲んだらその場でスーッとセキが治まって、気が付いたら眠っていたのです。

翌日の夜も、同じ効果が得られました。
こうして「私は合わないなんて、思い込んだらいけないんだな」と反省もしました。

■症状が強くなったら漢方薬を飲む
漢方薬のパッケージには「カゼのひき始めに」「1日3回、食前または食間に服用します」などと書いてあります。
しかし、私の飲み方は違います。

10年ほど前、三浦於菟医師(当時は東邦大学医療センター大森病院東洋医学科)に銀翹散(ギンギョウサン)について取材しました。

このとき、「1日3回なんて気にしなくていいんだよ。症状が悪化したら飲むんだよ」と聞きました。
銀翹散はのどの腫れを抑える漢方薬。
のどが痛くなったら銀翹散を飲むという対症療法的な使い方がよいという話です。

三浦医師はひょうひょうとした浮世離れした印象と、真逆のちょいギラギラ感を併せ持つ、不思議な人物でした(あくまでも個人的な意見)
それが逆に説得力を持つというか、こちらは「おもしろいな~」と話に聞き入ってしまったわけです。

以来私は、三浦式で漢方薬を使うようになりました。

実際、ゾクゾクと悪寒がするときに葛根湯(カッコントウ)を飲むと、すぐに体が温まって楽に眠れました。

銀翹散についてもしかり。ツバを飲み込むのさえ痛くてつらいときは、食前だろうが食後だろうがすぐに飲むのです。

のどなどに潤いを与えてタンが出やすい状態にしたり、セキを鎮めたりする麦門冬湯も、寝る前に枕元に数袋置いておいて、夜中に発作的なセキが始まったらすぐに、何度でも飲むという方式を取りました。
エキス剤はぬるま湯で飲んだほうがよいといいますが、セキが出ているときはそれどころではないので水です。
麦門冬湯は甘みがあるので、口に含んで、ゆっくりと飲み干していきました。

ちなみに三浦式は、エキス剤をぬるま湯で溶いてから飲むというもの。余裕があるときは、この飲み方のほうが効果は出ると思います。

■体感を重視したほうがピッタリの漢方を選べる
今回のカゼでは、大量にタンが出ました。色は透明だったり、黄色っぽかったり、さまざま。
セキもゴボゴボという音がします。
そのため、見た目的には体が乾燥していません。

しかし、手荒れが始まって、のどもかさついている感じはしていたのです。
この状態に、潤してセキを抑える麦門冬湯は合っていました。
「漢方薬は、長く飲んで体質改善をするものだなんて、間違っているね。症状に合っていれば、鋭く効くんだよ」という三浦医師の言葉を思い出しました。

効くと実感した漢方薬は、連打するように飲む。
治ったら、もう飲まない。
効かない漢方薬は、だらだら飲み続けない。

こうしたメリハリが重要だと思います。
なお、上記は10年前の話なので、現在の三浦医師がどのような飲み方を指導しているのかは不明。
私の飲み方を皆さんの周囲の薬剤師や医師に話すと「とんでもない!」と怒られるはずです。

今回の話はあくまでも一個人の体験。
漢方薬とどのように付き合っていくかは自己責任でお願いします。



○漢方での健康についての考え方
漢方では、正気(せいき:生命力や低抗力)より、邪や病邪(じゃ、びょうじゃ:生体機能を阻害する自然現象や体内に発生した有害物)が勝ったときに病気になると考えてれています。

ですから、「邪を避ける」ことと「正気を高める」ことが健康な毎日を送るために大切です。

病気の治療では「邪の除去」と「正気の回復」の2つを同時に行います。

○漢方でのカゼの分類
外界からの邪には、風(ふう)寒(かん)熱(ねつ)湿(しつ)燥(そう)などがあり、中でも風(ふう)は、常に動き回り、ほかの邪を運ぶといわれています。

風に寒が運ばれてきてカゼを引いた場合を風寒型、熱が運ばれてきた場合を風熱型と分類します。

風寒型は冬に多いと考えられています。
主な症状は、悪寒、体が冷えることによる関節痛や筋肉痛などです。
治療では体を温める生薬を含む漢方薬を用います。
体の表面から汗とともに邪を追い出す、つまり発汗させて治すわけです。

葛根湯、麻黄湯、桂麻各半湯は風寒型に適用で、最初の段階で寒気が強く、汗が出ていないことが絶対条件です。
冬に多い、寒気が強いタイプのカゼに使います。

風熱型は春から初夏にかけて多いと考えられています。
主な症状は体の熱感、のどの痛み、冷たい水を欲しがるのどの渇き、布団をはぎたいような状態で自ら汗を出すような高熱です。
治療では熱を冷ます生薬を含む漢方薬を用いて、炎症を抑えます

この場合には、銀翹散(ギンギョウサン)などを使います。
銀翹散は健康保険が適用されないため、清上防風湯(セイジョウボウフウトウ)で代用されることもあります。

インフルエンザには、風寒型、風熱型、湿温型などさまざまなタイプがあります。
ただ、風熱型が多く、急激に症状が悪化します。

○漢方薬の飲み方
漢方薬には煎じ薬とエキス剤があります。

エキス剤は煎じ薬から有効成分を取り出したもので、その大半は顆粒状や粉末状の形状です。

漢方薬はエキス剤も煎じ薬も、一般的に食事の20~30分前に服用します。
胃が空のときに服用することで胃腸から吸収されやすく、また、その後に食事を摂れば胃腸への刺激も緩和されるからです。

エキス剤はそのまま口に入れて服用するのが一般的ですが、できればエキス剤をいったんお湯に溶かして飲みましょう。
胃の中で薬が均等に広がって吸収され、胃への刺激も穏やかになるからです。

お湯で溶かすときは、まずエキス剤をカップに入れてからお湯を注ぎます。
エキス剤が2種類以上の場合、一緒に混ぜて溶かしてもいいでしょう。

アルミの袋に入った漢方製剤メーカーのエキス剤は、長期の保存に耐えられます。
一方、病院やクリニック、薬局などでエキス剤を分包したものは、保存が難しくなります。
2週間以上保存する場合は、乾燥剤を入れた密閉容器に入れてください。

煎じ薬については、煎じる前の生薬は乾燥しているため、1年くらいの長期保存が利きます。
ただ、虫やカビがつきやすい生薬もあるので、密閉したポリ容器やチャック付きのポリ袋などに入れ、冷蔵庫で保管しましょう。

煎じた薬液は腐りやすく、夏の高温多湿の状態に置いておくと1日で腐ります。
薬液は冷蔵庫に入れて保存し、その日のうちに早めに服用するのが原則です。
遅くても3日以内に服用するようにしてください。

適切な漢方薬が処方されれば、急性の病気なら2~3日で効果が現れます。

○漢方と東洋医学
「漢方」も「東洋医学」も、中国発祥で日本古来の医学を表す言葉ですが、言葉が生まれた時代と背景が異なります。

中国最古の王朝とされる殷(紀元前15~11世紀)の甲骨文字には、医術の記録があります。
その後、伝説的な医術の名人の教えや経験をまとめた医学書が漢(紀元前202~後220年)の時代にまとめられ、「陰陽五行論」に基づく医学的な理論体系を紀元前後に確立しました。

古代中国の医学は、周辺諸国に広がり、日本には今から1500年以上前の紀元5~6世紀(奈良時代)に伝わりました。

時代は下り、江戸時代以降に、長崎の出島にオランダ人の医師が来て、オランダ医学が日本に入ってきました。
そこで、オランダ医学と区別するために、従来の医学に「漢方」という言葉が使われるようになりました。
漢方の漢とは、中国漢王朝の漢ではなく、漢民族を指しています。
オランダ医学は、その漢字表記である阿蘭陀から「蘭」の字を取り、蘭方と言われるようになりました。

明治になると、政府は西洋化を推し進める富国強兵政策を取りました。
そして明治16年に、西洋医学を勉強した者のみを医師とするという法律を施行しました。
結果、日本で漢方は衰退していきました。

明治43年頃、ごく一部の医師が漢方の重要性を説き、漢方を学ぶ医師が現れ始めました。
こうして、漢方復活していくのです。
東洋医学は、この頃に使われ始めた言葉とされています。

参考文献:『週刊朝日 増刊号 漢方2007』、東邦大学医療センター大森病院ホームページ
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