触れられた手のぬくもりが自然治癒力を高める

手のぬくもりで得られる安心感は、「愛情ホルモン」のオキシトシンを分泌させて、痛みなどを解消させる効果があると考えられています。


体に触れてケアされることで
救われる命もある
「看護師は医師の単なるサポート役ではありません。看護師にしかできない仕事があるのです」

このように語っていたのは、看護師の川嶋みどりさんです。
川嶋さんは現在85歳ですが、まだ新人だった頃に末期の悪性腫瘍だった9歳の女の子を担当し、看護の力を実感したのだそうです。
女の子は衰弱して痛みを訴えるばかりで、まったく食事が取れない状態でした。
しかし、川嶋さんが温かいタオルで体をきれいに拭いてあげていたら、1週間後に「おなかが空いた」と訴えてきました。
川嶋さんがおかゆを作って持っていくと、女の子はおいしそうにおかゆをのみ込みました。
その姿を見て、川嶋さんは「体に触れてケアすることで、看護師にだって救える命がある」と確信したのだそうです。

医師にしてみれば、治療は薬や手術で行うもの。
「患者の体を拭く暇があったら、医者を手伝いなさい」などと川嶋さんは言われたとのこと。
それでも川嶋さんは「看護で患者さんの症状が回復に向かう可能性が高い」と考え、看護師の仕事を続けてきたと話していました。

看護師の手のぬくもり、触れられる気持ちよさが、患者さんたちの生きる力と生きようとする思いを強めたのではないでしょうか。

洋の東西を問わず、手で患部を触れるという行為は、古くから医療の中で行われてきました。
『手の治癒力』(草思社)などの著者である桜美林大学の山口創教授によると、21世紀に入り、手が心と体を癒すメカニズムが、現代医学でわかってきたそうです。
メカニズムの一つが、触ること(タッチング)で分泌される「愛情ホルモン」と呼ばれているオキシトシン。
オキシトシンについては、不安や痛みを和らげる効果や心の発達に与える影響などで研究が進んでいます。

人間の体には
計り知れない力がある
私が編集者として働いた21年の間に、川嶋さんをはじめ多くの人から、病になること・病から回復することについて話を聞いてきました。
そして人間の体には、検査の値や前例だけでは決めつけられない、計り知れない力があると思うようになりました。

医師に言われたことや数値だけで一喜一憂しないほうがいいでしょう。
また、医師もさまざま。
ある治療法に対してまったく正反対の見解を示していることは珍しくありません。

何を信じればいいのか、不安になったら、家族やパートナーなどからそっと触れてもらう。
また、不安でいっぱいの人には、背中を優しくなでてあげる。
私たちの手のぬくもりほど、確かなものはないでしょう。

触られた人だけでなく
触れる人も安らぐ
体重が2500g未満で生まれてきた赤ちゃんは、血液検査などをたくさん受けるため、ストレスにさらされます。
ストレスに反応して脳の血流が大きく変動すると、出血するリスクが高まります。
そんな赤ちゃんの全身を両手で包み込んであげることで、脳の血流の変動が小さくなったと、2012年に近畿大学が発表しています。

この発表を知って、外界を認識しているかどうかわからないような小さな赤ちゃんでも、手のぬくもりで安心感を得ているのだと私は思いました。
赤ちゃんが病気になったときには、私たち大人がそっと抱いてあげると安心し、回復が早まるかもしれません。

また、スキンシップで身体感覚を養うことは、子どもの心の発達にもつながると、発達心理学の分野で報告されています。
ですから、子どもはたくさんなでてあげるといいでしょう。

年老いた両親は、人生の寂しさを感じています。
優しく体をさすることで、いたわり、力づけることができるでしょう。

スキンシップの効果は、一方向ではありません。
触れている側の人間も、孤独や不安を癒され、自然治癒力を高められているはずです。